令和8年(2026年)分の所得から、所得税の基礎控除が大幅に引き上げられた。2025年まで48万円だった基礎控除が、合計所得489万円以下の場合は104万円へと56万円増加する。給与収入ベースに換算すると、年収約650万円以下の会社員の多くがこの恩恵を受ける計算だ。

ただし重大な注意点がある。住民税の基礎控除は43万円で据え置きとなっており、今回の改正は「所得税のみの軽減」にとどまる。「住民税込みで大幅に手取りが増える」と思い込んだまま家計計画を立てると、実際の増加額が想定を大きく下回ることになりかねない。制度の正確な仕組みを理解した上で、自分の年収に当てはめた試算を行うことが重要だ。

仕組み・背景を正確に把握する

基礎控除とは

基礎控除は、所得から差し引くことができる控除の中で、すべての納税者に一律で適用される「最低保証」的な控除だ。収入の種類や職種を問わず、合計所得金額が一定額以下であれば無条件に適用される点が特徴で、追加の手続きや条件達成は不要だ(ただし申告は必要)。

会社員の所得税計算の流れを整理すると次のようになる。

  1. 給与収入(額面)から給与所得控除を差し引く → 給与所得
  2. 給与所得から基礎控除・社会保険料控除・その他控除を差し引く → 課税所得
  3. 課税所得に累進税率(5〜45%)をかける → 所得税額

基礎控除が増えるということは、ステップ2で差し引ける金額が増えるということ。課税所得がその分だけ直接減り、所得税も減る。シンプルな構造だが、影響の大きさは課税所得に適用される税率帯によって変わる。

今回の改正の背景

物価上昇への対応として、政府は基礎控除と給与所得控除の双方を引き上げる改正を実施した。令和7年(2025年)12月に閣議決定された令和8年度税制改正大綱に基づき、2026年・2027年の2年間は**「特例」として高い控除額が設定されている**。この特例期間終了後は、消費者物価指数に連動した「本則」(2026年時点で62万円)に切り替わる予定であるため、恒久的な減税ではないという認識も持っておきたい。

また、給与所得控除の最低額も55万円から65万円に引き上げられており、年収の低い会社員にとっては基礎控除の拡大と合わせてダブルの恩恵となる。

住民税との違い

今回の改正で所得税の基礎控除は最大104万円に増加したが、住民税の基礎控除は43万円で据え置きとなった。所得税と住民税はそれぞれ独立して計算されるため、住民税に対する削減効果はない。

住民税は前年の所得をもとに翌年6月から徴収されるため、2026年分の所得に基づく住民税(2027年6月〜の天引き額)も変化なしとなる。この点は多くのニュース記事で明記されていないことが多く、注意が必要だ。

具体的な数字で試算する

基礎控除の改正前後の比較

合計所得金額〜2025年(改正前)2026〜2027年(特例)増加額
489万円以下48万円104万円+56万円
489万円超〜655万円以下48万円67万円+19万円
655万円超〜2,350万円以下48万円62万円+14万円
2,350万円超0〜32万円(逓減)変わらず± 0
給与所得控除(最低額)55万円65万円+10万円

※「合計所得金額」は給与収入から給与所得控除を差し引いた後の金額(給与所得)に相当する。年収と合計所得は異なるため注意。

年収別・所得税軽減の試算

以下は、基礎控除の増加分のみを考慮した所得税削減の概算(試算値・目安)だ。社会保険料や扶養控除など個人差のある条件は含んでいない。住民税の変動はないため含めていない。

年収(目安)合計所得(概算)適用基礎控除(2026〜)控除増加分所得税軽減(試算)
300万円約202万円104万円(489万円以下)+56万円約2〜3万円
500万円約356万円104万円(489万円以下)+56万円約5万円
700万円約516万円67万円(489〜655万円)+19万円約4万円
1,000万円約805万円62万円(655万円超)+14万円約3万円

※ 合計所得は給与所得控除適用後の概算値。所得税の軽減額は課税所得の帯域(税率5〜23%)に応じて計算した参考値。個人の状況(配偶者控除・住宅ローン控除の有無など)により実際の数字は異なる。

試算のポイント

年収500万円前後の会社員が最も恩恵を受けやすい。理由は2つある。

  • 合計所得が489万円以下となるため、特例最大の104万円が適用される
  • 課税所得が330〜695万円帯(税率20%)に乗ることで削減効果が相対的に大きくなる

一方、年収1,000万円の会社員は合計所得が655万円を超えるため特例加算が少なく、基礎控除の増加分は14万円にとどまる。「高収入ほど恩恵が大きい」という先入観は捨てた方がいい。

また、年収300万円の会社員は課税所得が低いため税率帯が5%にとどまり、控除増加額(56万円)に比べて所得税軽減額は小さくなりやすい。とはいえ、これは「改正前から所得税をあまり払っていなかった」からであり、家計への負担が軽い状態が続いているという見方もできる。

今すぐやること3つ

1. 年末調整の「基礎控除申告書」を正確に記入する

基礎控除は自動適用ではない。年末調整時に会社から配布される「給与所得者の基礎控除申告書」に自分の合計所得見積額を記入し、控除額区分を申告する仕組みだ。記入漏れや誤記入があると、改正後の高い控除額が反映されない。

計算の目安:給与収入(年収)から給与所得控除を差し引いた額が「合計所得」となる。多くの会社員は源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」欄を参照すれば概算が分かる。今年の年末調整(2026年12月)に向けて、事前に自分の合計所得見積額を把握しておくことを勧める。

2. ふるさと納税の上限額を今年度版で再試算する

基礎控除の変化により所得税の課税所得が下がると、ふるさと納税の控除計算に影響が出るケースがある。ただし、ふるさと納税の全額控除限度額は主に住民税所得割(住民税の約20%)で決まるため、住民税に変動がない今回の改正では上限額の変化は限定的だ。

とはいえ、所得税と住民税の合算で控除を計算する「所得税からの控除分」には変化が生じるため、ふるさと納税のシミュレーターで今年度の上限額を改めて確認しておく価値はある。「昨年と同じ金額で問題ない」と思い込まず、年収・家族構成の変化も踏まえて再試算すること。

3. iDeCoの掛金額が今も最適かを点検する

基礎控除の増加により課税所得が圧縮されると、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金による追加の節税メリットに変化が生じることがある。課税所得がすでにゼロ近くの人は、iDeCoの掛金を増やしても所得税の削減効果が得られないためだ。

逆に、課税所得がまだ十分に残っている人は、iDeCoの節税メリットは引き続き大きい。今回の改正を機に「自分の現在の課税所得はいくらか」を概算し、iDeCoの掛金額が最適かどうかを点検すること。特に年収500万円前後の会社員は、基礎控除増加後もiDeCoの節税効果が高い帯域に残る可能性が高い。

まとめ

令和8年(2026年)分の所得から、所得税の基礎控除が最大104万円に引き上げられた。年収500万円前後の会社員で年間約5万円の所得税軽減が見込まれる(試算値)一方で、住民税の基礎控除は43万円のまま据え置きで変化なし。「手取りが大幅に増える」と期待する前に、所得税と住民税の違いを押さえることが先決だ。

今回の特例は2026年・2027年の2年間限定の措置で、2028年以降は物価連動の本則(62万円)に戻る可能性がある。恒久的な減税ではないため、「特例期間中に節税の仕組みを整える」という発想が合理的だ。

大切なのは制度の恩恵を取りこぼさないこと。年末調整の基礎控除申告書の正確な記入、ふるさと納税上限額の再確認、iDeCoとの組み合わせ点検という3つのアクションを今のうちに済ませておけば、2026年の改正メリットを確実に手取りに反映できる。税制は変わり続ける。自分の数字で判断する習慣が、長期的な資産形成の土台になる。